安来苑の鰌話

当館で、ドジョウ料理を始めたのは、もう35年以上前になります。その当時、安来市内の民間業者が、ドジョウを養殖していた事もあり、せっかくの安来節があるのに、ドジョウ料理の一つも無いのは、もったいない!と思いまして、一番ポビュラーな「ドジョウの柳川鍋」を始めました。

しかし、現代では当地でドジョウを食する習慣が少なく、一部の少数の人だけが自分で調理して食べていた為、なかなか名物料理と称するまでにはなりませんでした。

生臭み・泥臭さ・固い骨・・・ほとんどの調理師の方は、「ドジョウは食材になりにくい!」との固定観念を持っていたと思います。加えて女性には不向きな見た目の悪さもあり、長い長い間、ドジョウは表舞台に立つ事は無かったのです。

そんな中で、今から20年くらい前に、「やはり柳川鍋というのは、他の地域の料理方法だから、何とかして、地元の人が食べているやり方で提供したい」と、このように考えたのでございます。

そして、当地では昔から「細いどじょう」を、素麺のようにズズッと食べる「どじょう汁」があった事に着目しました。これを何とか復活させたい。こう思いまして、地元の方から情報を求め、当館で開発したのでございます。

しかし、骨の硬さは、いかんともし難く、やはりゴリゴリして慣れない方には食べにくいものとなってしまいました。

やはり、ドジョウ料理は、特殊な一般受けしない料理なのだろうか?こういう疑問が、何度と無く巡って出口の見つからない状態が続きました。

そして、今から10年ほど前に前(平成22年現在)の市長である島田二郎前市長が音頭を取り、ドジョウ振興の企画がスタートします。
前々からドジョウ料理を出していた当館に、市役所から「料理を開発して欲しい」とのお話があり、特に予算などはつかないものの、前々から本気で取り組みたかった事の一つでもあり、やっと本腰を入れて研究する事にいたしました。

全国の様々なドジョウ料理の情報を聞き、それを実践して開発を重ねました。
今まで出していた、柳川鍋も、どじょう汁もすべて料理方法を見直ししました。

生臭さ・泥臭さ・姿形・骨が硬い、これらドジョウの持つ欠点を解消し、まず一般向けの料理にしようと、スタートします。
こうしてできあがったのが、新たな柳川鍋と「どじょうの唐揚げ(その当時はどじょうの竜田揚げ、現在はしておりません)」です。

形も開いて見た目を良く、骨を取って固さを無くし、ぬめりも取り去り生臭みを消しました。これを濃い口の醤油出汁で柳川は卵でとじ、唐揚げは漬け込んで数日ほど熟成させます。
旨みの増したドジョウ料理となり、ドジョウを食べた事の無い方でも「美味しい」と言っていただけるようになりました。唐揚げは、普通は冷めてしまうと生臭みが出て食べられなくなりますが、当館の唐揚げは、冷めてもそのような事はございません。そのかわり、この料理方法ですと、どじょうの元々持っている旨みも、濃い出汁に影響されたのも事実でした。

しかし、ここで思った事は、食べた事のある方にも、ドジョウ本来の素朴な味も演出したい!とこのように考えました。
そこで、ドジョウを昔から食べておられる方向けに、ドジョウの串焼きと、ドジョウ汁の料理方法の再考をする事となりました。

串焼きは、姿のままで素朴に食べさせたい。この思いから、山椒ミソや柚子ミソを素焼きのドジョウに塗って食べる料理を開発しました。
ドジョウ汁については、骨を柔らかく炊く方法を新たな開発しました。この技法の延長で、「ドジョウの酢の物」や佃煮などもメニューに載せる事となります。

この段階で、

・ドジョウの唐揚げ
・ドジョウの柳川鍋

・ドジョウの佃煮

・ドジョウの酢の物

・ドジョウ汁

・ドジョウ串焼き

計6種類のドジョウ料理を提供できるようになります。この順番にも意味がありまして上から順に「ドジョウ料理の初心者」→「玄人?」の好みのラインナップになります。ドジョウを食べつけている方ほど、「串焼き」に近くなります。せっかく安来に来て、ドジョウ料理を食べたけど、口に合わなかった!などとはお客様に思わせたく無いのです。このような流れを作る事で、「どれかは必ず口に合う」料理があるように考えたのです。

しかし、これで終わりではありませんでした。安来苑の専務にとって、大きな不満が一つあったからです。

どの料理も、日本全国回れば、どこかで同じものを食べられるかもしれない?

こういう思いがありました。「串焼き」や「唐揚げ」などは、当館独特のものなので、ほとんど無いのでしょうが、何と言っても
ドジョウ料理の花形は「鍋」
です。

東京の有名店でも、やはり柳川とは別に、「どじょう鍋」がちゃんとあります。

これがとても悔しいのです。何としてもオリジナル鍋を作らない事には、「ドジョウ料理」の完成はありえま
せん。

こうして8年前から、新しい鍋を考えておりました。イメージとしては、関東などの濃い口醤油ベースではなく、関西圏らしく「薄口醤油」ベースでの味付けにしたい!
それは、一発で満足するような味では無く、一口目では「薄い味かな?」2口目で「お?」と思い、3口目で「美味しい!」と感じられる鍋です。

一回で満足するようなものではなく、繰り返し食べられる鍋。これを目指しました。食べれば食べるほど、美味しく感じる関西風のドジョウ鍋。ちょっと上品な感じの味付けというイメージだけは、膨らみに膨らみます。

なかなかイメージが現実になる事ができませんでしたが、平成15年の6月にやっと完成いたしました。
笹がきゴボウに、姿のまま煮込んだドジョウ。これに刻みネギをたっぷりかけて、当館オリジナルの、ドジョウを炊き込んだ出汁を使って作ったスープで煮込み
ます。
旨みが強く、しかも素朴なドジョウの味が損なわれず、最も純粋にドジョウの味を楽しめる鍋となりました。

作ってみれば、偶然ではありましたが、まるで「田んぼ」に泳ぐドジョウをそのまま鍋にしたようなイメージの料理となっておりました。

全国、どこに行っても、当館のドジョウ鍋はございません。「ここだけ」で食べられるオリジナル鍋
す。

そして、ここで初めて!どじょうというものは、とても美味しい食材なのだと気がつきました。今までさんざんどじょう料理を作っていながら、本当のどじょうの旨みに気がついていなかったのかもしれません。
この新しい鍋(ネギどじょう鍋)の完成とともに、またまたまた!すべての料理の見直しをする事になりました。

それまでの唐揚げも柳川鍋も、ある意味で万人向けに作ってきました。しかし・・

どじょうの美味しさは、開いては美味しさが半減する!

濃い出汁につけ込んでは、出汁の旨みに負けてしまう!

こういう思いがどんどんとわき出して来たのです。
そこで、すべての料理を「姿のまま」調理する事に大変更!

唐揚げに至っては、その時点での唐揚げを「竜田揚げ」として別にしまして、姿のままで、生臭くなく、また泥臭くなく、さめてもカラっとした状態で召し上がっていただけるように・・そして、どじょう本来の旨みを引き出せるようにまったく新たに開発いたしました。

そしてとうとう骨の柔らかさを自由にできる「秘伝の炊き込み技法」が完成しました。無粋な圧力鍋などでは炊きません。そこらへんにある普通の鍋で、たとえ江戸時代にタイムスリップしたとしても、同じように炊ける当館独自の手法です。

こうして、長い長い時間をかけて、育てあげてきたドジョウ料理ではありますが、当館も、これで完成、これで終わりでは無く、今あるものをもっと磨き、新たな料理の工夫が無いか?これからも研究して行くことと思います。

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